駅前の店は変わり、二人で座った席もなくなっている。それでも街は、何も知らない顔で今日の続きを始めていく。
『あの日』は、男女デュオで少し切ないラブソングをつくってみたい、という気持ちから生まれました。別れた二人が過去を否定するのでも、元に戻ろうとするのでもなく、まだ名前のつかない距離から互いを思い出す歌です。
二つの声の間に残るもの
曲は90 BPMのindie popを軸に、ギター、シンセ、ドラム、ベースを重ねた、少し浮遊感のある音にまとめています。速く感情を押し出すというより、言えなかった言葉があとから静かに浮かんでくるようなテンポです。
女性の「もしも、また会えたなら」に、男性が「答え合わせはしなくていい」と返す。どちらか一人の回想ではなく、二人の声が少しずつ同じ場所へ近づいていく構成にしました。
別れの理由を一つに決めてしまわないことも、この曲では大切でした。「嫌いになったわけじゃない」。ただ、同じ未来を選べなかった。好きだったことまで間違いにせず、そのまま持って歩いていく二人です。
別れの瞬間より、その後の時間
MVでは、二人が別れる決定的な瞬間を強く見せるよりも、そのあとをそれぞれがどう歩いているかを描きました。
駅のホームに立つ彼と、夕暮れの川辺で立ち止まる彼女。桜や水面、淡い青を共通させながら、二人を同じ画面に置かないカットを挟んでいます。景色はつながっているのに、歩いている時間は別々。その距離が、歌の掛け合いにも重なるように思います。
歌詞の後半には「あの曲も今は聴けるよ」という一節があります。忘れることだけが前進ではなく、思い出しても以前とは少し違う場所に立てる。部屋に残るレコードやギターも、過去が消えたのではなく、触れられる距離へ変わってきたことを表す景色として置きました。

急がない映像をつくりたい
最近、展開の速い映像で次々にカットを見せるよりも、コマ割りを増やしながら、一つひとつの場面をゆっくり見せるほうが自分らしいのかもしれないと考えています。
ゆっくりであることと、何も起きないことは同じではありません。人物の立つ位置、視線、隣にある空席、電車が来る前のホーム。小さな変化に意味を持たせれば、大きく動かなくても物語は進められるはずです。
もちろん、いまはまだ全然できていません。『あの日』も、その方向へ進み始めた途中の作品です。だからこの制作ノートは、できたことの記録であると同時に、これからそういう映像をもっとつくっていきたい、という小さな宣言でもあります。

最後に二人が願うのは、昔へ戻ることではありません。知らない時間を過ごした相手に、「はじめまして」に近い「久しぶり」を言うこと。
その言葉へたどり着くまでの時間を、急がずに映像にできるようになりたいと思っています。
indie pop / lo-fiあの日駅前の店は変わり、ふたりも別々に歩く。軽やかなindie popの音が、別れを沈み込ませずに『好きだった』を残します。MVではその距離も描きました。曲のページを開く →最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
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