クラシックの世界で挫折した主人公が上京し、ポップピアノの世界で自分の音を鳴らしていく。『僕の音』では、そんなストーリーをMVにしてみたかったです。最後にはバンドと一緒に大きなステージに立つ、という成功までを描いています。
歌詞の「正しい音を追いかけて」と、終盤の「誰かの正解じゃなくていい」。その間に何があったのかを、手とピアノの場面をつなぎながら考えました。
三枚のボードを先に揃える
今回初めて、キャラクターシートだけでなく、アートボードとシーンボードも事前に作り、三枚を揃えてからフルMVのカットを作り始めました。キャラクターシートには主人公や周りの人の姿、アートボードには練習室・駅・街・ライブ会場の色や光、シーンボードには歌詞に沿った場面の流れをまとめています。

ボードを作ったあとも、場所の設定は調整しました。初期のボードでは駅のピアノが屋外のグランドピアノでしたが、完成した映像では改札から離れた屋内通路のアップライトピアノにしています。先に物語の流れを見渡し、カットを作りながら細部を直していく。今回はその順番で一本を作ってみました。
譜面の前で止まった手
序盤には、クラシックの練習室や、書き込みのある楽譜が出てきます。主人公は弾けなくなった手を見つめる。何か大きな事件を足さなくても、歌詞にある「間違うことが怖かった」を、鍵盤の前で手が止まることで見せられると思いました。

そのあと主人公は街へ出ます。映像の中で、練習室のピアノから駅につながる通路のピアノへ場所を移すことが、上京して別の音楽を始める入口になりました。
一人の拍手から
歌詞には「誰もいない駅前で」「ひとつの拍手が」とあります。映像では、改札から少し離れた屋内通路の壁際にアップライトピアノを置きました。通りかかった一人が演奏を聴き、拍手をする。ここでは満員の客席を見せず、その一人の反応が主人公に届く場面にしています。

クラシックの経験を消して新しい人になる、という話ではありません。「失くしたものも 遠回りも/全部 僕になった」と歌うように、止まっていた時間も抱えたまま、次の音を出してみる。ひとつの拍手は、そのきっかけです。
小さな舞台を通って、バンドへ
駅の次にすぐ大きなステージへ飛ぶと、主人公の変化が少し急に見えます。自分の部屋でノートに音を書き、小さな会場でピアノを弾いて歌い、友人やバンドの仲間とつながる場面を間に置きました。後半では画面にバンドの仲間が増え、最後は客席のあるステージへ向かいます。

駅の一人に届いた歌が、小さな会場を経て、バンドと一緒に鳴るステージへ進みます。人が増えていく間にも、主人公が自分で音を書き、選んでいる時間を残しました。
映像をつなぐ途中では、ピアノが背景にもう一台現れたり、ノートが書きづらい向きになったりもしました。絵コンテの段階で一枚ずつ見直し、駅では一台のアップライト、舞台では一台のグランドピアノという場所の違いも整理しています。一枚の絵の雰囲気に気を取られていると、こういうところを見落とします。
編集した映像の終盤には、誰もいない駅のピアノがもう一度映ります。大きなステージを見たあとにその場所へ戻ると、最初の拍手が少し違って見える気がします。ストーリー性のあるMVを作りたいと思って始めた一曲。まだ試しながらですが、歌の最初から最後までひとつの話を通すことに、これからも挑戦したいです。

industrial / piano rock僕の音駅前で震えながら歌った夜、ひとつの拍手が止まっていた手を動かす。ピアノとインダストリアルロックで、自分の音を探す歌です。曲のページを開く →最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
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