真昼の隅田川。入道雲の向こうで花火が開き、少し遅れて音が届く。
『青空花火』は、大学生の恋愛と花火をテーマにした物語をつくってみたい、という気持ちから始まりました。完成したMVは、ひとつの夏の恋を描いた作品であると同時に、ずっと越えられなかった「同じ人物で映像をつなぐ」という壁に、初めて手が届いた記録でもあります。
大学生の恋と、隅田川
制作のきっかけになったのは、TVアニメ『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』でした。大学生の二人と花火をめぐる物語に刺激を受け、「大学生の恋愛と花火」という組み合わせで、自分もひとつの曲と映像をつくってみたいと思いました。
舞台を隅田川にしたのも、その着想からです。もちろん原作やアニメと同じ物語をなぞるのではなく、いただいた刺激を自分の歌へどう置き換えるかを考えました。原作者やアニメ制作スタッフの皆さまへの敬意を込めつつ、私なりの夏の景色へ運び直したつもりです。
公式のティザーPVにある、光や風、花火を待つ時間の美しさも印象に残っています。好きな作品から受け取ったものをそのまま借りるのではなく、自分の中を一度通して、別の感情を持つ作品にしたい。その距離感は大切にしました。

なぜ、夜ではなく青空なのか
花火といえば、まず思い浮かぶのは夜空です。実際、制作中には夜の花火の映像も生成しました。けれど並べてみると、この曲に似合っていたのは青空のほうでした。
夜の花火には、祭りの高揚や終わりの寂しさがあります。一方、昼の空に咲く花火は少しだけ現実から浮いています。見慣れた夏の景色なのに、どこかありえない。その非日常感は、AIで映像をつくるからこそ試してみたい表現でもありました。
そもそも「青空に花火は、きれいに生成されるのだろうか」という好奇心もありました。青の中で光が消えてしまわないか、花火として読めるのか。試してみると、白い雲と淡い光の線が思っていた以上に爽やかで、曲の前へ進んでいく感覚にもよく合いました。
着想のもとにすでに大切な作品があったからこそ、題名と画面の中心に「青空」を置くことが、自分なりのアレンジになったのだと思います。夜の映像は惜しくも本編から外れましたが、比較したからこそ、このMVの色を決めることができました。

はじめて越えられた、キャラクター固定の壁
この作品がとくに印象に残っているもうひとつの理由は、私にとって初めて「キャラクターを固定したMVをつくれた」と感じられた作品だからです。
同じ男女が、川沿いを歩き、別の角度から映り、表情を変え、それでも同じ人物に見える。文章にすると当たり前のことですが、AIで複数のカットをつなぐと、顔立ちや髪型、服、年齢の印象は簡単にずれてしまいます。去年から何度も挑戦しては失敗していて、私にとっては悲願のような課題でした。
あるカットでは髪型が変わり、別のカットでは二人の年齢まで違って見える。正面では同じ人物に見えても、横顔にすると別人になることもありました。
しばらく離れていたMV制作を再開したとき、AIの技術も進化していました。「今なら、もしかしたらできるかもしれない」と思い、手探りでもう一度挑戦しました。参照する絵を揃え、二人の服装や色を絞り、違う構図でも同じ人物としてつながるところを探していきました。
もちろん、見る方からすれば「ここは顔が違う」「このカットは少し別人に見える」という部分がまだたくさんあると思います。それでも、当時の私にとっては十分に大きな前進でした。
正直に言えば、自分の技術だけが急に成長したわけではなく、進化したツールに助けられた部分が大きいです。でも、使えるものを頼りながら、ずっとできなかった形へたどり着けたことは素直にうれしかった。ひとつ山を越えたような感覚がありました。
君がいない夏も、いつか青春になる
歌の主人公は、去年二人で歩いた場所を、今年は一人で歩いています。失恋を忘れたわけではないけれど、似た横顔をもう追いかけない。花火が開いた瞬間を、今度は誰かではなく自分の目で見る。
青空の爽やかさは、思い出を消すための明るさではありません。眩しすぎる午後も、君といた季節も、嫌いにせず連れていくための色です。
好きな作品から受け取ったひとつのきっかけが、昼の花火という少し不思議な景色になり、さらにキャラクター固定という長年の課題を越えるきっかけにもなりました。
『青空花火』は、完成した映像以上に、「ここからなら、もう少し先へ進めるかもしれない」と思わせてくれた作品として、これからも印象に残り続けると思います。
drum and bass / indie pop / alternative pop青空花火昼の空に花火を咲かせる、大学生の恋の歌。MVでは隅田川の景色と人物のつながりを試行錯誤しました。曲のページを開く →最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
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