『追い風』では、当初、分かりやすい現代忍者アニメのオープニングを目指していました。でも、必要なシーンやアクションを一本の映像にするのが難しかった。そこで、気に入っていたキャラクターの雰囲気と配色を残し、二人が同じ街を歩き、走る一日の物語へ刷新しました。歌詞の「君を見つけて」から「君のそばを走りたい」へ進む気持ちが、今のMVの軸です。
写真の街と、いま目の前にある街
冒頭、少女の部屋には荷物の箱があります。彼女は街の写真を小さな黒い鞄に入れ、いつもの道へ出る。何が変わろうとしているのかは言葉で説明しません。歌詞にある「言えないことはまだあるけど」という距離が、二人の間にも少し残っているように見せたかったです。

今どき紙の写真を持ち歩くのは、少し珍しいかもしれません。その少し古風な感じも、時計塔や細い道があるこの街の世界観に合っているように思いました。
朝、少年が彼女を見つける。二人は並んで進み、放課後にもまた同じ街を歩く。終盤は少女が先に階段を上り、少年が追いついて並ぶ。二人とも自分の足であの景色へ向かう話にしたかったです。
見晴らし場では、少女が鞄から写真を出し、写っている街と今の街を見比べます。写真の中の時間には戻れなくても、目の前の景色は二人で見られる。その一瞬が歌詞の「君と見ていたこの景色」につながればと思いました。

出会ってから、並んで歩く
構成上のルールは、サビまで二人を走らせないことでした。曲には勢いがありますが、出会う前から全力で走ってしまうと、サビの「走れ」が映像の変化になりません。前半は住宅街の道で自然に出会い、視線を交わし、並んで歩く。距離が少しずつ近くなる時間を置いてから、二人で同じ方向へ走り出す構成にしました。
朝の俯瞰では、二人は同じ横断歩道へ向かいながら、植え込みを挟んで別々に歩いています。この距離を先に見せると、後で並んだときの変化も伝わる気がしました。

ただ歩く場面が続くだけでも退屈です。顔の寄り、足元、横から見た二人、街路樹の影が落ちる道。カメラの距離や向きを変え、ときどき人物のいない風景も挟みました。空の色や塀の形が見えると、二人が今どんな場所を進んでいるかも伝わります。

忍者アニメのOP案から、いまの街へ
最初の案では、現代の街で動く忍者たちを紹介するつもりでした。設定画の二人は気に入っていたので、髪形や服、絞った配色は引き継いでいます。今回のMVでは、設定を説明する場面よりも、写真を持つ少女と少年が同じ道を進む時間を中心に据えました。制作しながら方向を変えたことも、この作品の大事な経緯です。
舞台は住宅街、学校、裏道、階段と見晴らし場。白い塀、木の影、電線、時計塔が繰り返し現れ、朝の道と放課後の道が同じ街にあると感じられるようにしました。風は髪や服の裾を動かし、二人の足取りにも重なります。
人物の基準は、最初に気に入ったキャラクターシートです。少年の黒髪、青灰色の上着、生成りの幅広いパンツ。少女の白いボブ、黒いロングベスト、青灰色の袖とパンツ。街も濃紺、青灰、生成りを軸に、赤は少年の胸元などごく小さく使う。少ない線と大きな影の面も、画面をそろえるための大切な要素です。場面が変わっても、この形と色から離れないようにしました。

画像を一枚ずつ見るだけでは、気づけないこともありました。少年が少女の後ろをついて行く構図が続くと、二人の関係が意図と違って見える。前のカットは平らな道なのに、次で急に坂になる。階段の上り下りや進行方向がつながらない。人物の首と体の向きが合わないカットもありました。画面単体で雰囲気がよくても、前後につなぐと物語が止まってしまいます。
そこで、カットの順番だけでなく、二人が街のどこにいて、どちらへ進むかを見直しました。似た画角が続く箇所は距離や方向を変え、場所の切り替わりには道や風景を挟む。衣装や色が基準から外れた画像も見直す。作業は地味ですが、この歌では「二人で進んでいる」こと自体が物語なので、大切な部分でした。
サビで走る。その動きは、まだ難しい
サビでは歩幅を変えます。二人が並んで走る横位置の画、正面から近づく画、斜めから追う画を考えました。カメラが切り替わっても、二人の向かう先は同じ。表情の寄りと広い景色を交互に置き、現代の街を駆け抜けるオープニングらしい勢いを目指しています。
ただ、走る場面を動画にすると、思うようにきれいな動きになりません。静止画では勢いがあっても、数秒間の走りを自然につなぐのは別の難しさがあります。最近の動画化にはDOMO AIのモデルを使っています。もっとスピード感を出すなら別の上位モデルを使う選択もありますが、このMVでは同じ動画生成モデルで通したい。その一貫性を選んだぶん、走りの表現はまだ課題として残っています。

以前、物語るMVについて書いたとき、曲を最後まで一本の話として見せたいと思っていました。『追い風』では、写真を鞄へしまう朝から丘の上で街を見るまで、二人が歩き、走ることを話の芯にしています。走りの動きにはまだ直したいところがある。それでも、最後まで同じ二人と一緒に街を進めたことは、今回作ってよかったと思える部分です。
Industrial rock / Japanese alternative rock追い風「君のそばを走りたい」から、サビの「走れ」へ。放課後の坂と並ぶ足音を、184 BPMのロックが押していきます。曲のページを開く →最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
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